スマホを置いてバチを握れば

その他

 ここ何年かの日常生活の中で、文章を読んだり言語を使って思考したり、スクリーンタイムが長くなってきています。こうしたデスクワーク中心の現代の日常生活では、言語や視覚を司る脳の領域を酷使しがちです。確かに24時間連絡をとることができる手段が確立されて利便性は上がりましたが、仕事や家庭などの人間関係からの逃げ場が格段に少なくなっている面もあります。

 没入感を取り戻す手段の一つとして、楽器の演奏は大きな効果を発揮すると感じています。実際に手や体を使う活動であるほか、言語を使わずに感覚的な情報をアウトプットできるからです。これにより、日常的に酷使する脳の領域、たとえば言語や視覚などに関する部分を少し休憩させられます。それと同時に異なる脳の領域、たとえば身体感覚や聴覚、運動などに関する部分を使えます。特に、津軽三味線の演奏では両手を使うので、演奏中はパソコンやスマホの操作からシャットアウトされる時間になります。何も見ずにフレーズの反復練習したり、撥打ちの一打一音に集中する瞬間などは、画面から離れる貴重な機会になります。

 また、大人の習い事は社会生活を送る際のバッファーにもなります。私自身、稽古を通じて音に没頭する時間は、日常のしがらみなどから距離を置ける「安全基地」のようなものだと気づきました。何より、自分よりも上の世代の生徒さんが精力的に腕を上げていく姿を見ることで、”新たな挑戦に遅すぎることはない”ということを、講師である私の方が教わっている毎日です。

余談ですが、舞台で演奏する機会をいただいたことをきっかけに、何とか自分で着物を着られるようになりました。自国で育まれてきた文化だからこそ、第一線で活躍する奏者の生演奏や、楽器に関する知識や情報へのアクセスがしやすいのも、三味線ならではのアドバンテージです。

デジタルデトックス、人間関係の緩衝、文化的な彩りの側面から、津軽三味線が現代人の日常生活に新たな回路を加える一助となれば嬉しいです。